ここでは,この論理を学ぶ上で重要になってくるこれら2つの記号に着目する.
まずは,∀と∃が持つ意味を説明する.
∀: これは "すべて"(あるいは,任意の)を表す.(PowerPointやTEXなどでは \forall で出力できる)
∃: これは" ある" を表す.(PowerPointやTEXなどでは \exists で出力できる)
「...だから何?」と思う方も多いだろう.これらの記号をどう使うのか,じゃんけんを例にして考えてみる.
"すべて"のじゃんけんの 手1 に対し,"ある" じゃんけんの 手2 が存在し,
手2 は 手1 に勝つ ・・・(1)
手2 は 手1 に勝つ ・・・(1)
長々と一文が続いているが,内容は難しいことを言っているわけではない.(手1や手2の1,2は後半の文章で二つの単語が区別できないとわかりづらいために,つけているだけで深い意味はない)
「"すべて"のじゃんけんの 手1 に対し」とは,「グーにもチョキにもパーにも」という意味である.この文章に続く「"ある" じゃんけんの 手2 が存在し,手2 は 手1 に勝つことができる」とは,「グー,チョキ,パーいずれに関しても,それに勝つことのできる手が存在する」ということを意味する.
つまり,グーにはパーが勝つことができ,パーにはチョキが勝つことができ,チョキにはグーが勝つできるというじゃんけんの一般的な事実を表した文章となっているのである.
では,この文章をもう少し量子化記号を用いて数学っぽくしてみたいと思う.
「"すべて"のじゃんけんの 手1 に対し」は,「∀手1」 で表現できる(じゃんけん等の言葉は,シンプルに表現するため,ここでは省略する)
「"ある" じゃんけんの 手2 が存在し」は,「∃手2」で表現できる.
続けて書くと,以下の様に表現できる.
∀手1,∃手2 s.t. 手2は手1に勝つ ・・・(2)
s.t. (such that ~)は,~のようなを意味する.「リンゴ s.t. かたくて食べれない」で,「かたくて食べれないようなリンゴ」となる.つまり上記は,「手1に勝つような手2」を意味する.
∀は”すべて”を意味すると前述した.ここでは,グーチョキパーすべてに対応する.俺に対して,∃は"ある"を意味し,こちらはグーチョキパーのいずれか一つ,あるいは複数に指し示している.従って,∃に対しては,「どのような」ものが存在(exists)しているのかを具体的に記述する必要がある.そこで,(2)のように s.t. の後にその情報を記述するのが一般的なルールである.
(1)で長々と表現されていた文章がここまですっきりと表現できるのを見ると,多少はこの記号の便利さが分かるかもしれない.
だが,∀∃のような記号を使うのは何も文字数を節約したいだけではない.数学,主に論理学や暗号理論では,"任意"や"ある"といった表現がとても重要な位置にある.しかし,(1)で書いたような文章を,それぞれの著者がそれぞれの趣向の表現で書いていては,誤解を生む原因にもなる(英語はまだよいが,日本語では特に).従って,こういった表記法を標準に扱うことで,だれが読んでも誤解を生まない,より論理的な文章を表現できるのである.
ここまで,読んで「なんだ簡単じゃん」と思った方もいるかと思う.しかし,大学で学ぶだけあって多少の難関はある.それは以下の問に集約される.
「∃手1 s.t. ∀手2 に手1は勝つ」は(2)と何が異なるのであろうか
この文章は(2)によく似ている....が意味は全く異なるのである.
これに関しては,また次回解説する.